マネジメントコンテスト関西3連覇。
それは、私にとってただの肩書きではありませんでした。
初対面のクルーと、たった30分で信頼を築き、オペレーションを整え、
お客様に感動を届けるという“極限の現場力”が試される大会。
私は京都・竹田街道店のアシスタントマネージャーとして出場し、
関西で3期連続の優勝を果たしました。
自分の中の“マネジメント観”が完成に近づいていたその頃、
私はご褒美のような機会をいただきました。
それが──アメリカでの現地研修です。
当時、私が訪れたのはカリフォルニア・サンタクララにあるマクドナルド店舗。
店舗運営、チーム編成、接客の視点など、現場の細部にまでこだわるその姿勢は、
まさに「世界のマクドナルド」の本質を肌で感じる時間でした。
しかし、もっと深く、私の価値観を揺さぶる出来事が待っていました。
研修の合間に、ふとしたきっかけで足を延ばしたナパバレー。
ワインの名産地として知られるその場所は、どこまでも美しく、どこか神聖でした。
歴史を感じさせるワイナリー。
陽の光を受けて輝くぶどう畑。
そして、テイスティングルームで出会った一本の赤ワイン。
「カベルネ・ソーヴィニヨン」──
その名を聞いても、当時の私はワインの知識など何もありませんでした。
でも、香りを嗅いだ瞬間、頭の中に情景が浮かび、
口に含んだ瞬間、心の奥に何かがスッと染み渡るのを感じたのです。
「これは、飲み物ではない。“体験”だ」
そう思いました。
それまでの私は、「飲食を回す側」にいた。
でも、この一杯が教えてくれたのは、
“飲食が人生の記憶をつくる”という、本質的な感動でした。
現場を動かす。人を育てる。売上をつくる。
そのすべてに情熱を持っていた私でしたが、
この一杯が、静かに問いかけてきたのです。
「それだけで、本当にいいのか?」
帰国後、私は再びマクドナルドの現場に立ち、
29歳で店長に昇格しました。
やりがいはあった。成果も出た。チームも育った。
けれど、心の奥にはずっと“あの赤ワイン”が残っていたのです。
もっと自由に、人の心を動かせる場所があるんじゃないか──。
自分の手で、記憶に残る時間をつくる場所がつくれるんじゃないか──。
ファーストフードの世界では、私の“想い”を最大化できない。
その確信が、次第に私の中で輪郭を持ち始めました。
そして私は、決意します。
「自分でやろう」
自分自身が本当に届けたい“食の体験”を、
自分の信じる形で、ゼロから始めてみようと──。
もちろん、夢を語るだけでは何も始まらない。
次回は、その「夢」を現実にするために選んだ、
“たった200円”から始まる私の覚悟についてお話ししたいと思います。
『つるっち』こと 今鶴 博でした。